ワールド・カップ決勝の夜
「7月12日はワールド・カップの決勝だ。どこか大きな町なら広場の大画面で見る事ができるよ!」
パリでお世話になったフランス人から、そう聞かされていた僕は何とか日程を調整しようとしたが、結局JOIGNY(ジョイグニー)という田舎町のキャンプ場に来てしまっていた。
それでも、試合が始まる確か夕方の8時頃には、どこかで観れないかと、思案していたが。街に繰り出して、カフェで観るしかないか・・・と思い腰をあげ歩き出したときだった。国歌を歌いながら騒いでいる連中がいるのに気が付いた。数あるキャンピング・カーの中でも、そんなにぎやかな一角に自然と僕の足が向いていた。ほとんどのキャンピング・カーは、その大きな車体と同じくらいの大きな日差しを、キャンピング・カーの出口の方につけている。日差しは厚手のポリエステルやビニールで出来ていて、四角にポールが立っている。丁度、運動会の時に使う白いテントを、ちょっとおしゃれにしたもの想像してもらったらいい。同様にキャンピング・カーに、それと同じくらいの大きさの家型テントを合体させ一つの家として使っている家族も少なくない。
10人以上の人たちが、椅子や地面に座って小さなテレビに向かっている。顔や腕に赤・白・青のフレンチ・カラーで模様を書いたり、その色の帽子をかぶっていたりして応援を楽しんでいる。
ちょっと離れたところから遠慮がちに眺めていると、チラッとこっちを見て僕と目が合ったおやじが、「そんなとこで見てないでこっちに来な!」そんな意味ありげな目配せを投げてよこした。
嬉しかったが、奥のほうに余っている椅子に座りに行くのも気が引けるので、ちょっと近づいて立ったまま観戦する事にした。
10人以上の人たちが、椅子や地面に座って小さなテレビに向かっている。顔や腕に赤・白・青のフレンチ・カラーで模様を書いたり、その色の帽子をかぶっていたりして応援を楽しんでいる。
大きな家族だな・・・と思い観察していると、どうやらほとんどの人が僕と同じように他から見に来ている人たちだとわかってきた。奥さんが外からご主人を呼びに来たり、その子供が遊びに来たりしているからだ。
でも彼らは、何日も前からそこに住んで!?いる、いわゆる隣人同士で、まったくの他人というわけではなさそうだ。皆それぞれの休暇をキャンプ場に定住?あるいは居心地のいいところを探しながら移動して過ごす。そんなキャンピング・カーは彼らの移動する家と言ってもいい。
その家の奥さんが、「ボナ・カフェはいかが?」と明るい笑顔で僕に食後のコーヒーを薦めてくれた。ぼくは喜んで頂く事にした。そんなカフェを飲みながら、ぼくもフランス人の家族の一員になったようで、嬉しくなってきた。
観戦している彼らも、時々僕の方を向いてフランス語で声を掛けてくれるが、ほとんど理解できずに笑顔であいずちを打つしかなかない。そんな風だから、残り少なくなったカフェの上に半ば強引にジンが注がれ、僕の手元に戻ってきた。飲んでみるがそれほど悪くない・・・。
突然、緊迫した雰囲気が辺りに漂った。アナウンサーの早口の解説だけが辺りに響いている。皆かたずを飲んでテレビを見つめている。「OX△■・・・!ゴーーーーーーーーーーーーール!」
その後「ウォー!」「ヤッター!」という歓声が辺りに響きわたった。
フランスのゴールだ。しかもまだ前半戦だ。髪をモヒカン刈りにした高校生ぐらいの青年は、テントをぶち破らんばかりに跳びあがり、ガッツポーズを取っている。おやじ達もまけじとみんなと正面から抱きあい、背中をたたき合ってゴールを喜んでいる。僕も同じように抱きつかれ、背中をたたかれる。「ちょっと、おやじ、痛いって・・・」そう思うが、声にはでない。みんな子供のように嬉しそうにはしゃいでいるのを見て、僕の方まで嬉しくなってくるのだ。
「どこから来たんだ〜?ウィッ・・・」
騒ぎも一段落した後、隣でビールをあおっている兄貴がフランス語で尋ねてきた。年は僕よりちょっと若いぐらいで、やせ型だが、ひとなつっこい顔をしている。アルコールが入っているせいか、チンピラ風のしゃべり方になっている。紙巻きたばこも吸っているが、例のものも混じっているようだ。
「ジャポンだ。でも、フランス語はほとんどわからないんだ。」
というと、彼はたどたどしい英語で
「ジャポンか・・・、フランスとブラジル・・勝つ・・どっち・・・?」
「もちろんフランスさ!」
「そーか、そーか・・・おい、酒が・・無いじゃないか・・・ビールはどうだ・・・、ビールは・・・」
僕の残り少ないジンのカフェ割には、いつのまにかバーボンも注がれ、それでも中身は無くなりかけていた。どう言おうかと考えている僕の返事も聞かずに、彼はハイネケンのボトルを持ってきてくれた。
「飲みな!」
彼は気前よくおごってくれる。
僕は、よく冷えたビールをグイグイやった。
残り少なくなった僕のビール瓶を見て、
「もう一杯・・・どうだ!」
「いっいや、いーよ・・・さっきからいっぱい飲んでるから・・・。」
という僕の返事をよそに、自分のと一緒に2本のハイネケンを持ってきてくれる。
「トラバーユは?」
「えっ、トラ・・・ってなに?」
しばらく問答を続けていると、遠くから英語のわかるフレンチ・カラー帽子をかぶったの中年女性がこちらを向いて教えてくれた。
「英語でワークのことよ!」
「なーんだ、そうか!コンピュータのエンジニアさ。」
「そうか・・・そうか。コンピュータか・・・」
フランスでもどこでもそういうとみんな「今はコンピュータの時代だもんな・・・」としみじみ肯いてくれる。 わかりやすい職種だ。
「休みはどれくらいだい?」
「今回は、3ヶ月ぐらいだよ。」
「えー!?俺たちゃ1ヶ月だよ!なんでそんなに取れるの?」
横から、親父が割って入った。 「レギュラー・ワーカーじゃないからね・・・。普通は1・2週間しか取れないよ。」
「というと?」
「短期契約で、仕事をしてるんだ。だから、休みは割と自由なんだ。」
そんなことを話しながら結局ハイネケンを3本も飲み干してしまう。
そうこうしているうちに、僕のビールと同じ本数の点が入った。
どうやら今回、勝利の女神はフランスに味方したようだ。